• 杉本功太

アジアの塔 ―塔から宗教の偶像性を垣間見る― 第1回

更新日:9月4日

私が初めてカンボジアのアンコール遺跡群を訪れたとき、驚愕したのは石造の塔だ。その塔には様々な装飾が施され、バイヨン後期になると顔が彫刻されるようになる。この四面尊顔塔はアンコールの独自性であるとされ、仏陀の慈悲の基に観音が世界の四周を照らすという考え方のもと計画されたと言われていたこともあるらしい。アンコール以外にもネパールにあるスワヤンブナート寺院の仏塔には仏陀の目が描かれている。私はこのような塔の偶像性に偉大さを感じ、追求していきたいと思うようになった。そこで本稿ではアジア各地にある塔を紹介していき、塔の偶像性について考えていこうと思う。(画像1)

第1回 アジアにある様々な塔 その①

文・スケッチ/杉本功太


まず塔について軽く整理していきたい。皆さん馴染みが深いのは、仏塔・ストゥーパであると思う。これは仏教の塔であり、仏陀の遺骨を収めた塔を仏塔と呼ぶのだ。仏陀が死去したとき、信者たちがその遺骨を八分して塔(ストゥーパ)を建てたことが起因となっている。それがインドで始まり、東南アジアに伝わるとパゴダやチェディという石造の建築物になり、日本では中国を経由して五重塔・三重塔といった木造の建築物へと変化する。今回は、上記のうち「ストゥーパ」「パゴダ」「チェディ」の3つに焦点を絞り、建築物を見ていきたい。


「ストゥーパ」とは上記でも少し触れたが、仏舎利(釈迦の遺骨)を埋葬する墓として成立したことが起源として知られている。

ストゥーパの起源は、もともと墳墓として築かれた土饅頭であり、塚あるいは墳丘とでもいうべきものである。したがって建築的空間構成の見地からいえば、内部空間の無い中実な建造物である。 (中略) ついには仏教特有の建造物となり、それ自身全体が礼拝供養の対象物の一種となったのである※1。

そしてマウリア朝のアショーカ王が仏舎利を取り出して小分けし、84,000基の小ストゥーパを造営したと伝承される。最も代表的なものが中央インドにあるサーンチーのストゥーパだ。サーンチー仏教寺院遺跡に残る3基の仏塔のうち、寺院の中心に建ち、最も規模が大きいのが第1仏塔である(画像2)。半球形を中心にして、周囲を巡るように計画された。

仏塔は、仏教時代以前からインドにあった記念碑的な墳墓の形式を発展させた建築だが、それは単に仏陀や弟子達の偉大さを示すための墓ではない。一説では、覆鉢はインド的世界観における宇宙の中心・須弥山(メール山)、覆鉢内部に埋め込まれた垂直に立つ柱(ユーパ)は天と地を結ぶ宇宙軸を、それぞれ表しているとされる。仏塔は、当時の人々が考えた宇宙の仕組みを表現したミクロ・コスモスであり、その中で人間がいかにあるべきかを示す仏教思想を視覚化して説く建築なのである※2。

その後、ストゥーパの建築物は各地へと伝播し、様々な形式のストゥーパが生まれてくるようになる。ミャンマー式、タイ式、ブータン式、ネパール式、チベット式…など様々な形に変化しながら、各地の風土にあった建築様式へと変貌していく。各地に伝わるにつれて変化させていく柔軟性や協調性が建築物に表現されていることは実に興味深い。


「パゴダ」とはミャンマー様式の仏塔のことを指し、ミャンマー語ではパヤー(PAYA)と言い、仏塔自体はゼディ(ZEDI)と呼んでいる※3。特に有名なものがミャンマーのヤンゴン中心街北に位置する『シュエダゴン・パゴダ(画像3)』である。金箔で覆われた豪華絢爛な巨大な仏塔で建立時期は2500年前にまで遡る。パゴダは釈迦の化身として信仰の対象でありながら、また信者の憩いや社交の場ともなっている。

「チェディ」とは、タイの寺院において仏塔・ストゥーパに起源を持つものである。その他にも「プラーン」と呼ばれるものもあり、これはクメール建築のプラサートのことであり、仏塔と同じ役割を担うようになった。このようにタイにおいては、仏塔・ストゥーパは「チェディ」と「プラーン」の2種に大別される。チェディは時代や場所の変化に応じてさらに様々な様式に変わる。プラーンは祠堂として扱われるがタイにおいては仏塔と同じ役割を担い、中でもトウモロコシ型のプラーンは有名である。


このような塔の様々な建築様式へと変化していく過程の中で、どのような建築計画や意義が尊重されたのか。今回は仏教に焦点を当てて塔について紹介を行ったが、次回はヒンドゥー教の塔について紹介を行いたい。(続)



※1 「東南アジアのヒンドゥー・仏教建築」千原大五郎 鹿島出版会 1982/10/1 p.39より引用

※2 「世界宗教建築大事典」監修/中川武 東京堂出版 2001/9/20 p.173 より引用

※3 「一般社団法人 日本ミャンマー友好協会 公式サイト」

http://jmfa-main.com/myanmarsituation/religion/20160628.html

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